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第71話「上野公園大掃除!」

 

 宇宙番長はいま、上野公園前に来ていた。
 何故かというと株式会社宇宙征服基金の歳末助け合い運動の一貫として、宇宙番長が直々に派遣されたからである。
 正確には、派遣させられた。
 日頃街を猛烈に破壊しまくりながら戦う宇宙番長は、このバックアップ会社に負担どころか転覆しかねないほどの超絶天文学的大損害を与えるため、イメージアップ兼罰当番としてトイレ掃除を含む上野公園大掃除を言い渡されたのである。
 宇宙の支配者なのに。
 与えられた道具は竹ぼうきのみ。
 そして強力な助っ人となるはずのゴミ拾い翁も年末と言うことで休暇中であった。
 年末の慌ただしいながらも平和なムードの中、今年最後の戦いがいま始まる!
「フッ・・・だが俺にとっちゃこんな掃除など朝飯前よ」
 竹ぼうきを片手にポーズを決める宇宙番長。
「おい、そんなところで格好つけてないでおまえもやれよ」
 背後から突っ込みが入る。
 今回、特別ゲストとして宇宙番長により無理やり召還されたアンドロメダ番長である。
 このアンドロメダ星雲の支配者はミジンコの顔をしたゴリラという、怪獣映画でもそうそうないような身の毛もよだつ化け物的スタイルを醸し出している生き物であり、時々地球に来襲しては宇宙番長と付近住民を恐怖のどん底にたたき入れる。
 たいして強くはないのだが、バラバラにしてもそうそう死なないので、みんな嫌がる。
 でもアンドロメダ星雲では超絶美男子らしい。
  いきたくない。
「ったく。年の暮れにこんなところまで呼び出しやがったと思ったら掃除を手伝えだと?ふざけるにもほどがある」
 とかいいつつまめにゴミを集めるアンドロメダ番長。なかなか手慣れている。
「一人でこんなところの掃除など終わるか!」
「だからって人を呼ぶな!」
「少しは世の役に立て。俺たちは仮にも支配者だぞ」
「おまえよりは役にたっとるわい」
「なにをー貴様ー」
 ほうきを振り上げアンドロメダ番長に襲いかかる宇宙番長。
 しかし、いずこからか視線を感じてやめる。
「チッ。・・・・・監視がついてやがる」
「おまえ、信用されてないんじゃないのか」
 厳しい指摘を受け言葉に詰まる宇宙番長。事実だけに迂闊な反撃はできない。
 アンドロメダ番長はゴミを集め、一つにまとめる。
「ぬううううう」
 そして気合い。
 嘴状の口の先端から赤紫の液体がしたたり落ち、それにふれたゴミは白煙を出しながら溶けていった。
 アンドロメダ番長の必殺技、「完全溶解消化液」である。
 この体内で分泌される強力な消化液は鉄であろうと泥であろうと、紙であろうとガラスであろうとたちどころに分解してしまう、恐るべき威力を誇っていた。
 しかし、あまりに使えないのでもっぱらこういう用途に用いられる。
 なお、分解の際に発生する白煙は人体に若干有害だが、人間以外には害はないので大安心である。
「おい。ゴミを溶かすな」
「何かいけないことでもあるのか?」
「アスファルトまで溶けてるじゃねーか」
「うむ。不幸な事故だ」
「不幸な事故、じゃないだろ。弁償させられるのは俺なんだぞ」
「気にするな」
 再びゴミを溶かし始めるアンドロメダ番長。
 もはやそのおぞましさにだれも近寄るものはなく、上野公園は鳩も近寄らぬ異次元空間へと変貌を遂げつつあった。
 その後大したこともなく、二人は黙々とゴミを拾い集め、そして溶かした。
 だが上野公園は広い。
 昼を過ぎてもまだ半分も終わっていなかった。
「おわらんな・・・・」
「そうだな」宇宙番長は思案した。「なんでこの公園はこんなに汚いんだ?」
「そりゃあ、汚す奴がいるからに決まってるだろう。誰もよごさなきゃビニールとかタバコの吸殻は発生しない」
「そうか……今度の役員会で、環境美化の法律化を検討したほうがいいな」
 そうして地球の美化のあり方について論議をかわす二人の横を、若者が通り過ぎる。
 そして短くなったタバコを吐き捨て、何事もなかったかのように去っていく。
「なぁ……」
「ああ……」
 二人はお互いやるべきことを0.0003秒で理解した。

「宇宙パンチ!」

「全身毛針体当たり!」

 背後からの強襲と、それで怯んだ相手に容赦ない攻撃が降り注ぐ。

「宇宙ラリアット!」

「アンドロメダアッパー!」

「宇宙キック!」

「アンドロメダローリング!」

「ミラクル怪光線!」

「粘着性混合液体爆薬唾液!」

 上空で大爆発、四散した若者は半殺しの全治一生となって墜落、炎上した。
 たかが吸殻一つでやりすぎ、と言う諸氏も2%ほど存在するとは思うが、シンガポールではゴミを捨てた人間は殺されても文句はいえないので命があるだけまし、と考えるべきである。実際シンガポールではマナーの悪い観光客がストリートでゴミを廃棄した罪で毎年2000人ほど銃殺される。
 すごいぜシンガポール。
 ということで、若干の手加減が加えられた若者は、今後二度と街でゴミを捨てることはないだろうということだけは確かだった。
 よかったよかった。
 さて話を続行しよう。
 瀕死の若者を蹴り出した宇宙番長達はその後も懸命な清掃活動に励んでいた。
 ビニール袋や吸い殻、落ち葉などを分類しつつ集めるというのはなかなか面倒な作業である。しかし、宇宙番長が好き勝手に集めてくるゴミをアンドロメダ番長がまめに分類するという、連係プレーは予想以上の成果を上げていた。これは役割を分担することによって作業を効率化した結果なのだが、アンドロメダ番長はとにかくゴミだけ集めてくる宇宙番長に若干腹を立てていた。
 そしてそのフラストレーションは集めたゴミへと向けられ、消化液によって分解されるのである。
「ぬうううう」
「おい、もう溶かすなよ。溶かしたら鳩の餌にするぞ」
「鳩がそんなことするわけないだろ」
「甘いな。ここの鳩は肉食だ」
「そんなわけあるか。」
  指摘するアンドロメダ番長の前に何羽かの鳩が撒いて降りる。
「みろ。こんな可愛い鳥が肉食のわけが・・・・うわーっ」
 瞬く間についばまれるアンドロメダ番長。
「だからいっただろ・・・」
「ぐわああああ」
「そいつらはな、ハンバーガーで餌付けされてみんな肉食になっちまったんだ・・・人類の犯した罪って奴だな」
「感傷に浸ってないで助けろっ」
「だいじょうぶだ。腹が満たされればいなくなる。ここが人間とは違うところだ」
「ぎゃーっ」
 宇宙番長はアンドロメダ番長を見捨てて掃除を続行する。
 なぜなら、アンドロメダ番長が食われている間は絶対に安全だからだ。
 野生の本能を取り戻した鳩は正確に統率された動きで、アンドロメダ番長に襲いかかり、筋肉の一番弱い部分や無防備な部分を的確についばんでいく。
「どひーっ」
「おい、静かにしろ」
 無茶な注文をする宇宙番長。
 やがて満足した鳩は飛び去っていく。
 後に残されたのは、いろいろな部分を食い散らかされ、加えて全身の毛を抜かれて薄桃色の鶏のような姿で横たわるアンドロメダ番長だった。
 ちょっと北京ダックににている。
「うう・・・なんでこんな辺境まで来て鳩に食われねばならんのだ・・・」
「俺が思うにだな、おまえ前世でなんか悪いことしたんだよ、うん。だから、ついてないんだ。まちがいない」
「そ、そうなのか?」
「ああ。帰りに伊勢神宮で水子供養でもしてもらうんだな」
 水子供養は少し違う。
 やがて夕暮れが近づき、上野公園の掃除も終わりつつあった。
「で、この大量の落ち葉はどうするんだ?」
「まぁ任せておけ。適当なところでひとまとめにしておいてくれ。森にはあまり近づくなよ」
「なんでだ」
「野犬の群がでる」
「う、上野公園って・・・・」
「甘く見ちゃだめだ。日本の誇る史上最強の公園だからな」

 その後うかつに近寄ったアンドロメダ番長が野犬の群れにくい殺されかかったのは言うまでもない。

「さてと・・・・」
「どうするんだ」
「燃やすのさ。ダイオキシンなんて知ったことじゃねぇ。俺がなぜこう易々と公園掃除に甘んじたか・・・・今その理由を見せてやる!」
 おもむろにライターで枯れ葉に火をつける宇宙番長。
「フハハハハハハ!燃えろ燃えてしまえ」
 深紅の炎を巻き上げ、5メートル近い火柱があがる。
 調子に乗って「炎よ燃えろ」と歌いつつ踊り狂う宇宙番長。
「なんだ・・・・慣れない労働したからついに狂っちまいやがった」
「おまえにはわかっちゃいないのさ」宇宙番長は熱のこもった目で炎を見つめる。「この炎こそ、俺の野望を達成するための勝利の炎だ」
「なんだ野望って」
「黙ってみていろ・・・・」
「ま、地球は寒いし、こうやって火を焚いてくれるだけでも、だいぶありがたいがな」
しばらく暖をとる二人。
 下火になってきた灰へ、宇宙番長は足を入れていくつかの固まりを取り出す。
「なんだそれは」
「しらんのか。地球には焼き芋という風習があって、掃除して集めた落ち葉で芋を焼くんだ」
 別に風習ではない。
「ほほう。それにしてもいつの間に芋なんか入れたんだ」
「あっという間にだ」
 実際のところ、アンドロメダ番長が気づかなかっただけなのだが、年末と言うこともあり見栄を張る宇宙番長。
「そうか」
 アンドロメダ番長が全く悔しがらないので宇宙番長は激しく失望する。それがアンドロメダ番長への怒りに変わるのに一秒もかからなかった。
「わかった。お前には焼き芋はやらん」
「なんだ突然」
「ああ、やらんとも。絶対にやるものか」
「別に喰いたいなんて言ってないぞ」
「ぐうっ」
 冷たくあしらわれて歯がみする宇宙番長。
「このアンドロメダの田舎ものがほざくじゃねぇか」
「なんだと?馬鹿いえ、アンドロメダは都会だ。ここには「ムリパラパ」も「ヌキチオナ」もないじゃないか」
「しらねぇな。そんな田舎グッズ」
「貴様、アンドロメダを侮辱したな」
 二人の間に険悪な雰囲気が流れる。もちろん原因は宇宙番長が我が侭なせいだが、本人に自覚はない。
「前々から決着をつけてやりたいと思っていたところだ・・・・格の違いを知るがいい」
「それはこっちの台詞だ」
 二人は距離をとる。
 お互いに円を描くようにして隙を探った。
 同時に仕掛ける。

「宇宙パンチ!」

「伸縮自在粘着舌!」

 鋭く繰り出された宇宙パンチを、アンドロメダ番長の舌が絡め取る。
「むうっ」
「ろーら。ろろららろらりれらる」(注:どうだ。このまま溶かしてやる)
 そしてアンドロメダ番長の宣告通り、舌を伝って溶解液がしたたり落ちてくる。
 このままいけば宇宙番長の右腕が溶かされることは明白だった。
 しかし、宇宙番長はにやりと笑う。
「馬鹿め。だから貴様は三流なのだ!」
 宇宙番長は逆立った髪をアンドロメダ番長に向けて突進する。
 舌によって宇宙番長と繋がっているアンドロメダ番長にはそれが回避できない。

「ハリケーン的ミキサー!!」

 ダイヤモンドよりも硬い宇宙ヘアーの突撃を受け、アンドロメダ番長の身体は錐もみしながら宙を舞った。
 そしてまた燃えかすの残るたき火の中へと墜落する。
当然、その下にあったはずの焼き芋もアンドロメダ番長の自重によって押しつぶされた。
「うっ!俺の焼き芋が・・・・・!」
 拳を震わせ怒りをあらわにする宇宙番長。
「おのれぇぇぇぇっ」
 明らかに自分のせいなのだが、食い物の恨みという怒りにスイッチの入った宇宙番長は誰にもとめられない。額にエネルギーが収束していく。

「消し炭になれ!ミラクル怪光線!」

「偏光唾液プリズム!」

 アンドロメダ番長の口から放射された唾液は瞬時に固化し、プリズムのようにミラクル怪光線を分解、偏光させてねじ曲げた。
「馬鹿な・・・・ミラクル怪光線を破っただと?」
「フフフフ。貴様がのうのうと暮らしている間、私は血の滲むような特訓を続けてきた。貴様の技は私には通じん」
「はたしてそうかな?」
  宇宙番長は余裕の表情を崩さない。
「鳩によって全身の毛を抜かれた貴様も戦闘力は半減している。俺の勝利は揺るがん」
「なんだと・・・・・ハッ。もしや、先ほどの鳩は・・・・!」
「くっくっくっ」
 思わせぶりな含み笑いをする宇宙番長。しかし、本当に思わせぶりなだけで、たくらんだわけでもなく勝手にアンドロメダ番長が鳩に襲われただけである。
 しかし、こういう風に笑っておくといかにも策略に嵌めたかのように見えるので、効果的だ。
「貴様ぁぁぁっ」
 逆上し殴りかかるアンドロメダ番長。
  宇宙番長の目がぎらりと光る。

「いい感じカウンター!」

 豪快な炸裂音を響かせて、宇宙番長のカウンターがヒットする。
しかし、アンドロメダ番長は吹っ飛ばない。
「効かんなぁ。蚊に刺されたほども効かん」くちばしの先から僅かに血を滴らせつつ、アンドロメダ番長は嘲る。
「なんてやつだ。いい感じカウンターに耐えやがった」
「これで貴様の技は全て封じた。大人しく死ぬがいい」
 太い両腕をまわし、宇宙番長を締め上げるアンドロメダ番長。
「ぐあああああ」
「このまま背骨をへし折ってやる」
「ぐっくくく」
  宇宙番長は苦しみながらも笑う。
「この近距離ならば貴様とはいえ避けられまい」
「なっ!?まさか、最初からそのつもりで!」
「戦いとは二手三手先を読むもの・・・だから貴様は四流なのだ!」
宇宙番長の額に、再びエネルギーが収束する。
「はわわわあああ」

「死ねい!ミラクル怪光線!」

 至近距離から高エネルギーの光線が炸裂する。アンドロメダ番長の半身が引き裂かれ、四散した。
「フッ。やはり俺の方が上手だったなアンドロメダ番長」
「まだ終わってないぞ・・・・」
「なにい!」
 アンドロメダ番長は生きていた。というかいつも生きているのだが、今回は凄い生き残り方をした。自分で自分の首の関節をはずし、ミラクル怪光線から頭脳を守ったのである。
 いつものことだがアンドロメダ星人はパン粉ぐらいに粉砕しても絶対に死なない、宇宙一の生命力を誇る。その上さらに体を鍛えるわけだから、実際のところ寿命以外でどうやったら死ぬのかというのが謎なくらいの生命力があった。
「ふふ・・・なるほど。素晴らしい戦闘力だ。まだまだ楽しめそうだな」
「望むところ・・・・ってあれ?」
「なんだ」
「何か・・・・焦げ臭いぞ」
「その手には乗らないぜ」とかいいつつ鼻をひくひくさせる宇宙番長。「焦げ臭いな」
「おい見ろ。森が・・・」
「なにい!?まさかさっきの戦闘で!」
「いかん、消火だ。消防隊を呼べ」
「よし、いやダメだ。バレたら宇宙征服基金の役員会で吊し上げにされる」
「アホ!そんなこと言っている場合か」
「俺は自分の身がかわいい!」
 言いつつ、懸命にバケツリレーを続ける二人。
 火の手は徐々に広がっていく。
 二人の力ではもはやどうにもならなかった。

 結局、火は地元消防団によって消し止められた。宇宙番長の監視員が急遽消防隊に連絡したのが吉となったのである。上野公園はその20%ほどを火災で失うことになり、年末のニュース番組を騒がすこととなった。
 出火原因は不明だが、だいたい全員が判っていた。
 そして宇宙番長は例によって宇宙征服基金の役員会に招集され、今回の事態収集のため給料カットということが決定したのであった。

 というわけで年末ニュースで取り上げられることとなった宇宙番長。
 しかし、市民のための努力はいつかきっと認められる日が来る。
 市民の平和を守るため。
 ゆけ、宇宙番長!戦え、宇宙番長!