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第34話 「熱血!野球番長!」

 ある朝。
 宇宙番長は沸き上がる熱い思いを隠しきれないでいた。
「これだ………俺が求めていたものはこれだっ!」
 目の前のポスターに向かって、拳をわななかせつつ叫ぶ。
 ポスターは何処かの高校野球のポスターを無理矢理合成したかのような怪しい作りで、「町野球大会のお知らせ」と書かれている。
 スポーツでいい汗を流そう、云々。
 そんな事など関係がなかった。
 宇宙番長の視線はその下の「豪華賞品」の欄に注がれている。

 優勝賞品「お米券」

 別にスポーツのために胸をたぎらせていたのではなかった。
 しかし、お米券で米が買えれば食費が大幅に軽減できる。米さえあれば5000円は浮く。浮いたお金でボブの新曲「ゲイラカイトは凧じゃない」買うことも可能だ。
 あるいは女子プロレスラー養成シミュレーション「ムキムキメモリアル」を買うことだって出来る。
 2位のかき氷1年分とか3位のプールチケットなど要らないのだ。
 ねらうは優勝。そしてお米券。
 何より、俺は宇宙の支配者だ。敗北などゆるさん。
 ということで、宇宙番長は最強チーム結成のために奔走することになった。

 一番いい方法は練馬市役所の人間をチームに組み込むことである。
 早速、朝礼で宇宙番長は権力を振りかざした。
「練馬市役所は地域住民との交流を目的として町内野球大会に参加するので、出たい奴は手上げろ」
 誰も上げなかった。
 宇宙番長が地域住民と交流。
 絶対何かある。
「よし。じゃ出られない奴は理由をいってみろ」
「えーと、家族旅行で」
「野球のルールを知りません」
「女なので力がありません」
「お前は?」
「えーと」栗原は必死で答えを探した。何かもっともらしい理由をつけないと、怒られそうだ。「えー、予算が足りなかった」
「宇宙パンチ!」
「ほげぇっ」
 宇宙番長の鉄拳を受けた栗原は錐もみしながらぶっ飛んでいき、ちょっと野球大会出てみても良いかな、と思っていた村井と北沢をなぎ倒した。貴重なメンバー候補を倒したことに宇宙番長は気が付かない。いや、これは栗原の執念のなせる技なのか? そうなのか? 凄いぜ栗原。
 というドラマさておき、宇宙番長のチームは宇宙番長以外、ついに集まらなかった。

  そんなわけで登録の日を迎えた宇宙番長。
 結局メンバーは二人。
 宇宙番長と、おおかたの読者が予想したであろうアンドロメダ番長の二人だけである。
「おい。野球ってスポーツは9人でやるんだろ?二人だけでどうするんだ」
「フッ。任せておけ。俺に秘策がある」
 受付に向かってずんずん進む宇宙番長。
「あれ?二人しかいないみたいですけど」
「そう見えるだろうな」宇宙番長は何ら動じず、胸を張った。「ならば紹介しよう。俺のチーム、「練馬・透明ランナーズ」を!」

 即刻却下。

 しかし宇宙番長がその場で暴れ出しそうだったので、とりあえずハンディキャップマッチという扱いになり二人だけの参加を特例として許された。
 宇宙の支配者のくせに大人げない参加である。
 とりあえず、大会は少年の部と社会人の部に分かれて行われた。
 少年の部はつつがなく終了。
 そして待ちに待った社会人の部である。

「クックックッ。目標は全員KOだ」
 宇宙番長は笑いながらバットを振り回す。
 既に野球をしようという雰囲気ではない。
「えーと、攻撃の時はピッチャーが投げた球を打ち返せば良いんだな」
「そうだ。よく判ってるじゃねぇか」
「まぁ一応ルールブックを読んだからな」
  アンドロメダ番長は手にしていたルールブックをポケットにしまった。宇宙番長は気が付かなかったが、アンドロメダ語訳地球版野球ルールブックには誤訳がある。
 そんなわけで、はなからルールを守ろうという気のない宇宙の支配者と、礼儀正しいがルールを微妙に勘違いしたアンドロメダの猛者、二人の超人が町内野球になだれ込む!
 というか、アンドロメダ番長が参加という時点で棄権が続出。
「なんだ、恐れをなしてみんな棄権か」
 恐れ、という点では間違っていない。
「そうだな」
 宇宙番長も敢えて突っ込まなかった。
 俺はもう見慣れたけど、普通の奴が見たらミジンコ+ゴリラというのは怪物しかみえんよな。でも不戦勝が続くならそれだけでもこいつを呼んだ甲斐があるというもの。イヒヒヒ。
 などという事を考えていた。
 相次ぐ不戦勝で練馬透明ランナーズは順調に決勝戦まで勝ち進んだ。
 もともと4チームしか居なかったので、2チーム棄権でいきなり決勝だっただけなのだが。
 だが決勝のチームはひと味違ったのである。

 相手は「あさひ商店街連合」か。
 見たところ普通の若者とかおっさんの集まりだが、全員の体格からしてただ者ではない。
 こいつは手強いかもしれんな。
 何より、アンドロメダ番長を見ても逃げ出さない度胸がある。
「だがお米券は俺のものだ」
 奴らと俺では賭けているものが違う。
 その気迫こそが勝利への原動力。
「プレイボール!」
 ちょっと震える声で審判が試合の開始を告げた。
 マウンド上に立つのはアンドロメダ番長。
「ふんっ」
 振りかぶって第一球。
 凄まじい速度で肉薄した投球は
「ぐわぁ」
 いきなりデッドボールとなって三河屋の腹部を直撃した。
 アンドロメダ語訳版ルールブックにはストライクゾーンが「肘と膝の間の空間」ではなく「肘と膝の間」としか書かれていなかったので、それなら腹の辺りを狙えばいいのだろう、とアンドロメダ番長が考えた結果である。
 三河屋の三平は担架で運ばれていった。
「よし」
 人知れずガッツポーズを取る宇宙番長。残りはあと8人。
「おい、そこの化け物。お前、今わざと当てただろう」
「当てたも何もストライクゾーンはそこだってルールブックに書いてあったぞ」
 アンドロメダ番長には地球人の抗議の意味が判らない。
 しかも化け物とは何事だ。
 あさひ商店街の人々は、憤慨しつつもストライクの概念について教えた。
 アンドロメダ番長はそれで納得したが、相手の溜飲が下がった様子はない。
「あのバケモノ、俺たちを殺す気だぞ」
「まぁ待て。奴はどうもルールを勘違いしているだけらしい。それよりも気になるのはあのホウキ頭だ」
「宇宙番長か」
「奴こそ危険だ。絶対何か企んでいる」
「どうして判る」
「二人で野球が出来ると思うか?見たところ、あの化け物は奴の手下に過ぎない。それに三平をやったとき奴は止めにも入らなかった。アレは奴の指図だ」
「何だと!?おのれぇぇ」
「よくも三平を…………」
「俺たちから税金を巻き上げるだけでなく、三平の命まで」
 ちなみに税政と宇宙番長は何の関係もない。
 あと、三平は腹部打撲で運ばれていったが死んでない。
「三平の仇討ちだ!奴らを生かして帰すな!」
「ウオォォォォォ」
 という異様な盛り上がりをみせる。
 もはや野球の試合をしようと言う雰囲気出来はなくなっていた。
「なんか、向こうはえらく盛り上がっているな」
「クックックッ。所詮は雑魚の集まりさ」
「ところでさっき聞いたんだが、ボールは人に当てちゃダメらしいな」
「当たり前だ」
「あのバッターには悪いことしたなぁ」
「気にするな。避けられない奴が悪い」
「そうかなぁ」
「いいか。よく考えて見ろ。宇宙の支配者とアンドロメダの覇者を相手に戦いを挑んでくるような奴らだ。並の覚悟じゃない」
「ふーむ。そこまで悲壮な覚悟で挑んでくるとは。地球人にも骨のある奴が居るものだな」
「奴らを全力で叩き潰すことこそ、戦士としての手向けだ。サインなんて面倒なものはださん。俺のミットめがけて全力で投げろ」
「うむ。任せておけ」
 という事でタイムは終わった。

 当初のデッドボール事件後はアンドロメダ番長の好投が続く。
 何と言っても、時速200kmは優に超える剛速球である。普通の人間に打てるはずがない。
 正確にはマッハ1ぐらいで投げられるのだが、途中でボールが爆発することが判明し、野球にならないので威力を抑えて投げている。
 しかも、宇宙番長は相手に当たるか当たらないかの微妙な部分を狙って投げさせているため、大変恐ろしい。
 とはいっても、ストライクはきちんと積み重ねているのであっという間に三振の山である。
「奴ら、普通に野球をしているぞ」
「まさか、最初のデッドボールは躊躇して打てなくするための作戦?」
「なんて頭脳プレーだ………」
 あさひ商店街連合は激しく動揺した。
 しかし宇宙番長は別に頭脳プレーをしているのではなく、あんまり反則っぽいことをやると退場になるので取り敢えずまともに野球をしているだけである。
 全員KO計画に変更はない。
 そんなこんなであさひ商店街連合の攻撃は終わった。

 そして宇宙番長の攻撃。
 ピッチャーの投げた内角高めの球をみて、宇宙番長の目がぎらりと光る。
「チェストー!」
 裂帛の気合いと共に宇宙番長が打ち返した球は、投球モーションから体勢を立て直しつつあったピッチャーに当たり見事に粉砕した。
 ピッチャー脱落。
「野郎、わざとやりやがったな!」
 チーム一血の気が多いと言われている柳沢がベンチから飛び出した。
「言いがかりはよせ。バッターが打った球を取れなかったそっちが悪い」
 狙ったくせにしゃあしゃあとしている宇宙番長。
「なにおう」
「悔しければ三振でも取ればいい」
「貴様ッ」
 さすがに激昂し掴みかかろうとする柳沢を、もうひとりの男が止めた。
「落ち着け。………俺が投げる」
 何処か剣呑とした光を宿す男を、ただ者ではないと宇宙番長は見破った。
「少しは骨のありそうな奴が出てきたな。名前を聞いておこうか」
「沢村 隆だ」
「へっ。沢村さんが出てくるようじゃもうおしまいよォ!なにせ、この人は野球番長って呼ばれてるぐらいなんだからな!」
 オプションでついてきていた出っ歯の男が自慢げに言い放つ。この男、沢村のオプションとして何処までもついていく事で有名であり、名前を根津と言うが別にどうでもいいので詳しい経歴は割愛。
 宇宙番長は、この根津がうるさいので次に狙うのはこいつにしよう、と思った。
 そして沢村こと野球番長の投球。
 スピードはなかなかある。プロとしても十分やれるのではないかという強肩。
 とは言っても俺にとってはたいしたことはないがな。
 たかをくくってバットを振る宇宙番長。しかし手応えはない。
 球はキャッチャーミットに収まっている。
「フォークかっ」
 しかも落ち方が半端じゃない。
 あのスピードで、あれだけ落とすか。
 いかに優れた動体視力を持つ宇宙番長といえども、落ちたのを確認してからでは打てない。
 続く投球は普通の直球。
 そしてフォーク。
 言いように手玉に取られ、宇宙番長は三振する。
「くっ………大口叩くだけのことはある」
 宇宙番長は大人しくバッターボックスから出た。後ろで沢村の健闘を讃える声が響いてくるが、まだ勝負は始まったばかりである。悔しがることはない。
 ベンチに戻った宇宙番長とアンドロメダ番長がすれ違う。
「なんだ、三振かよ」
 揶揄するようなアンドロメダ番長の口調を宇宙番長はいさめる。
「油断するなよ。なかなかやるぞ」
 アンドロメダ番長は答える代わりににやりと笑い、バッターボックスへはいる。

 ものの1分で帰ってきた。

「何だあのボール。細工してあるのか」
「そういう投げ方なんだ。うまく投げるとああいう風に手前で落ちる」 
「凄いな、野球って。今度アンドロメダで流行らせよう」
 再びバッターボックスにはいった宇宙番長は逡巡する。
 たしかに凄いフォークだが、そうは続けて投げないはず。
 最初の一球にヤマを賭ける。
「ここだっ」
 と思ったのもつかの間、予想外のスローボール。
 完全に振り切ってしまったバットでまともに打てるはずもなく、当たりの悪かった打球は簡単にキャッチされ、アウト。
「むう」
 結局この回は双方とも点は取れなかった。

 そして再び練馬透明ランナーズの守備。
 相変わらず剛速球を投げるアンドロメダ番長。
 だが球に眼が慣れてきたのと、元のスピードがあるだけにバントの様にして打っても十分飛ぶことが判明。何とかバッターが打ち上げる。
 ワンバウンドしたそれをアンドロメダ番長は拾い上げ、猛然と走り寄った。
 タッチするまでアウトにならないと勘違いしたアンドロメダ番長は、逃げるバッターを何処までも追いかけ、やや勢いを付けてタッチするとランナーは思いきり吹っ飛んで地を滑り、動かなくなった。
 沈黙が流れた。
「あ、アウト」
 審判が震える声で告げたが、どう見ても反則っぽい。
 でもへたな事言うと死ぬ。

「ターイム!!」
 あさひ商店街連合の生き残りは野球番長を囲んだ。
「おい、こんな試合もう止めようぜ」
「何を言い出す!沢村のアニキが居る限り………」
「怪我人は続出しているし、もうこんなの野球じゃねぇだろ」
 至極もっともな意見である。
 懸命な読者は当初から気づいていると思うのだが、初めから野球の試合ではない。
「………わかった」
「アニキ!」
「ここから先は俺一人でやる!」
 野球番長こと沢村は威勢よく啖呵を切った。
 宇宙番長の挑戦を受けるだけあって、この人も普通ではない。
「兄貴一人、死なせやしませんぜ!」
「根津…………!」
 二人して熱血ドラマが始まったので他のメンバーは帰ることにした。
「じゃ、俺たちはこの辺で」
 ということで、あさひ商店街連合チームも2名になった。

「みんな帰っていくな」
「俺たちに恐れをなしたのさ」
 その点に間違いはない。
「待たせたな」
 やる気マンマンの野球番長を見て、宇宙番長は少し驚いた。
「まだやる気か」
「当たり前だ!」
 もはや引き下がれない、という気もしなくはない。

  そして2対2の試合が始まった。
 勿論まともな試合にならないので双方とも透明ランナーを採用し、メンバーの足らない小学生の野球のような心意気でスタート。
 まず最初のバッターは根津である。
 この根津という男、野球番長の舎弟だけあってなかなかの腕前で、アンドロメダ番長の剛速球を何度かファールにしているのだ。
 さすがにストレートは見切られてきたな。
 3回目のファールでアンドロメダ番長は少し考えた。
 球種を変えないとダメだ。
 アンドロメダ番長はそこで思いつく。
 俺もフォークボールを投げてみよう。
 うまく投げれば落ちる、といっても実はボールの握り方に秘密があるという事を知らないアンドロメダ番長は、ストレートの投げ方でやや斜め下に向けて投げた。
 鋭角的に地面へ突っ込んだボールは、強烈にバウンドし根津に襲いかかった。
 一度地面についたことによって威力を減じているものの肋骨を砕くには十分な威力があり、避ける間もなく根津は倒れる。
 野球番長は慌てて駆け寄った。
「沢村のアニキ………もうだめですぜ………」
「しっかりしろ、根津!」
「ああ…………アニキが優勝カップを高々と上げる姿があっしには見えやす………」
 町内野球大会にそんな物はない。
「アニキ…………絶対勝ってくだせぇ………」
「根津~!」
 ということで根津はリタイアしたが、気絶しただけで勿論死んでない。
「残るはお前一人だ。棄権するか?」
「バカなことを。たとえ一人になっても、貴様らには負けん!」
 もはや一人きりとなった野球番長。
 バットを掴んでバッターボックスにはいる。
 果たして勝機あるのか。
 というか正気なのか、という思いの方が強いのだが、言うだけあってアンドロメダ番長のボールを見事打ち返した。
 宇宙番長は打球の行方を追いながら走り、バウンドしたそれを掴んで引き返す。
「アンドメロダ番長、二人で挟み打ちだ!」
「おう!」
 ボールを持ったまま宇宙番長は腕を差し出した。
 このままアンドロメダ番長と文字通り挟み打ちにするのである。
「宇宙ラリアット!」
 しかし相手はひょいとしゃがんでそれを避けた。
「あ」
 十分な勢いを付けた宇宙番長は止まるに止まれず
「ぐわあ」
 そのまま全力のラリアットをかましてアンドロメダ番長の首をへし折ってしまった。
 宇宙一丈夫な体を誇るアンドロメダ番長なので死にはしなかったが、頸骨粉砕骨折でそのままリタイア。
 そしてグラウンドに残されているのは二人になった。

 仲間の屍を超え、裏切りにも屈せず、幾多の死闘を繰り広げたすえに残った二人。
 すなわち、宇宙番長と野球番長。
 奇しくも二人の番長に勝敗の行方は託されたのである。
 都合がいいと思うかも知れないがこれはそういう物語である。気にしてはいけない。
「もはや俺たちで雌雄を決する以外無くなったというわけだな」
 野球番長は金属バットを持ち出して宇宙番長と対峙した。
「俺に勝てると思っているのか?」
「やってみなければ判らんさ」
 手にしたボールをバットで打つ。
「フッ。こんなもので…………痛っ」
 避けたと思った宇宙番長の額に打球が命中する。
 と思う間もなく次々と球が飛んでくるのだ。
「あだだだだっ」
 一発の威力はたいしたことが無くても、たくさん当たるとそれなりに痛いうえに、なんか腹が立つ。しかも、ガードを解いて迫ろうとすると、すぐさま顔面に打球が飛んで来るのだ。
 これが野球番長の必殺技、地獄の千本ノックという攻撃だが見た目通りの名前である。
「だがそんな子供だましでやられるような俺ではない!」
 宇宙番長の額から放たれる強力な破壊光線、「ミラクル怪光線」は飛んでくる打球を全て蒸発させ、その延長にあった野球大会本部テントを破壊。試合後に飲もうと思っていたビールや賞品の類を一握の灰に変えながら日本海方面を抜けてチベット山中まで直進し、いつものように紫外線によって分解された。
 ついでに野球番長も倒されたかと思われたが、違った。
 その証拠に、勝機を掴んだはずの宇宙番長がよろめいている。
 光線が発射されると判るやいなや、野球番長はスライディングでその下に滑り込み、宇宙番長に迫ったのである。
 スパイクによるスライディング攻撃は宇宙番長の皮膚を浅く裂いたに留まったが、牽制としてはそれで十分だった。
 そしてその体勢からさらにバットで宇宙番長を殴る。
 さすがにそれは防御したが、宇宙番長は反撃せずに距離を取った。
「なかなかやるな」
「フフフ。野球こそ、地上最強の格闘技よ!」
 起きあがりながら、野球番長は不敵に笑った。
 ボールとかバットを使っている時点で格闘技というのはどうかと思う。
 再びノック攻撃で遠距離から牽制を行う野球番長。
 しかし、打球は10発で終わった。
 次なる球を補充しようと伸ばした手が空を掴む。
「しまった、球が無い!」
 調子に乗って乱射したため、早々に弾切れを起こした野球番長の眼前に宇宙番長が飛びかかった。
「宇宙キック!」
 数多の強敵を葬り去ってきた必殺のキックは野球番長の顎を捕らえ、吹き飛ばされた野球番長はバックネットを突き破り、その勢いでブーメランのような弧を描いて奥の草むらに錐もみしながら突っ込んだ。
 回転する野球番長の体はほぼ真円の軌道を描きつつ草をなぎ払い、途中で突き出た石に当たって、ヘリコプターのように上昇。15メートルほど浮遊したあと緩やかに勢いを無くして元のグラウンドに着地した。
 なお、このとき野球番長の体によって出来た奇怪な円は、2時間後にやってきたイギリス人考古学者ヘンリー教授によって「日本で発見、新型ミステリーサークル」という名前で米ネイチャー誌やムー等の雑誌で取り上げられ大いに話題を呼んだが、それはまた別の物語である。
「バカな…………野球が負けるだと!?野球は最強のはず………」
「お前が最強かどうかと言うこととは別だろ」
 攻撃力も全然無かったのでむしろ余裕の勝利。
「くっ………こんな事なら殺人魔球でも身につけておけばよかった………」
 そして野球番長は倒れた。
「フッフッフッ。これで優勝は俺のもの…………ってあれ?」
 ふと見渡すと、誰もいない。
 途中から壮絶な格闘戦となった町内野球大会は怪我人続出のためノーコンテストということなり、テント等の残骸は速やかに撤去され、全員引き揚げていた。
 気がつかずに格闘していたのは野球番長と宇宙番長の二人だけで、アンドロメダ番長は御覧の通り瀕死である。
「俺のお米券が………」
 呆然としてももう遅かった。
 ついでに、肝心のお米券は宇宙番長の放ったミラクル怪光線によって灰になっているので、テントが残っていても回収は無理。
 宇宙番長はほろ苦い思いを胸に家路についたのだった。

 かくして、町内野球大会でも獅子奮迅の活躍を見せた宇宙番長。
 お米券は逃したが支配者に敗北は許されないのだ。
 民間人との溝は深まったような気もするが
 行け!宇宙番長!戦え!宇宙番長!